医療法人顕夢会京都耳鼻咽喉音聲手術医院

耳の病気 先天性真珠腫について その2

先天性真珠腫について

先天性真珠腫について

前回は、先天性真珠腫の病気とその診断について書かせていただきましたが、今回は治療について書きたいと思います。

真珠腫に対しては、先天性であれ後天性であれ、根治的治療は手術しかありません。特に先天性真珠腫は進展が早い傾向があり、その疑いがある場合は原則として早い時期に手術を行います。
今回は手術についての詳細を書きますので、少々マニアックな内容になります。ご興味のある方のみお読みください。

手術といえば、身体に負担がかかり大変、というイメージがありますが、実際には耳鼻科領域の手術は大体1泊で十分です(腫瘍などの大きな手術を除く)。特に耳の手術は、切開は耳介の後ろ側の数センチを切るだけで、主な手術操作は顕微鏡下で細かい操作を行います。出血はごく少量ですし、手術操作の範囲も耳の中のせいぜい5㎝四方といったところですので、小児でも体への負担はあまりありません。ただし、耳の中には聴力に関わる組織だけでなく、顔面神経三半規管、あるいは2㎝ほど頭側には頭蓋底があり、慎重に手術操作を行う必要があります。

手術の目的は、

  1. まずは真珠腫を含めた病変を確実に取りきること。その上で
  2. 聴力の改善または維持に努めること。

です。真珠腫はわずかなかけらでも取り残しがあると、必ずまた大きくなってきてしまいます。昔は聴力を犠牲にしてでも確実に病変を取りきることが優先される方法(中耳根本術)が主流でした。その後、病変を確実に取ったうえで、聴力やその他の耳の構造もできるだけ温存する方法(鼓室形成術)が普及してきました。
病変を確実に取るには良い視野が必要ですが、本来の耳の組織をできるだけ犠牲にせずに、ピンポイントで悪い部分だけを取りきる、というのは、術者にとってはかなりのジレンマになります。実際の術式は、

  1. 外耳道の骨壁を温存しながら病変を取り除く方法(canal wall up法、またはclosed法)
  2. 外耳道の骨壁を削除し、視野を十分確保し病変を取り除く方法(canal wall down法、またはopen法)
  3. 外耳道の骨壁を削除したうえで病変を取り除き、骨壁の欠損部位を組織で再建する方法(canal wall down with reconstruction)

があります。以下のページをご参照ください。

https://www.hiroshiba.com/ear/disease02.html
https://www.hiroshiba.com/ear/operation02.html

A.のclosed法が最善であると我々は考えており、特に小児例では専らこの方法で行います。ただし、先に書いたように、視野が悪いため病変を確実に取り除くためには高度の技術を要します。真珠腫を取り残してしまうリスクがありますが、最近では顕微鏡で死角になる部分は耳内内視鏡で術野を確認することにより、より手術の確実性が増しています。顕微鏡は術野からある程度離れたところから見るため、どうしても死角ができてしまいます。その部分を内視鏡で補うことにより、確実に手術操作を行うことが可能となりました(動画参照)。

B.のopen法は、病変を取り除くには最もやりやすいのですが、耳の中がかなり広い空間となってしまい、術後痂疲(かさぶた様の耳垢)が溜まりやすく、定期的に耳鼻科での清掃が必要となります。また三半規管を直接刺激しやすく、水や冷たい空気の刺激でめまいが誘発されることがあります。水泳をすることは難しくなるため、小児には適当ではありません。 この方法は、真珠腫がかなり大きくなって、耳の中が広範に破壊されてしまっている場合にやむを得ず行います。

C.の方法は、コンセプトとしては良いのですが、削除してしまった外耳道の骨壁を元通りに再建することが難しくなります。再建する材料としては、手術の際に生じた骨のかけらをパテ状にしたもの(骨パテ)を使用したり、次回の軟骨を使用したり、あるいは筋膜のみを用いた軟素材再建という方法を好む術者もいます。本来の外耳道と遜色ないくらいにきれいに再建できる場合もありますが、長期的に見ると形がいびつになったり、一部の組織が吸収されてやはりopen法の様に広くなってしまったり、かなり個人差ができてしまいます。術後どのような変化を辿るかは、本当に個人差があり、これはなかなかコントロールしにくいものです。

 

以上から、どの方法も一長一短がありますが、患者さん本人にとっては、A.のclosed法が最も良いと我々は考えています。他の術式もそうですが、特にclosed法を確実に行うには、技術の研鑽が欠かせません。また、目先のことだけでなく、5年、10年以上先のことも考えて、手術を行う必要があります。また術後良好に経過していても、年に一度は診察で耳の中の状態をチェックする必要がありますので、医師だけでなく患者さんの側の努力も必要となります。当院では術後ご来院がない方に対しては、できるだけ受診していただくために直接お電話させていただいたり、お手紙やアンケートをお送りさせていただいたりしております。ウザったく思われる方もおられるかもしれませんが、術後のフォローアップが特に重要であることは強調したいと思います。

まだまだ書くべきことはあるのですが、またの機会に続編を書きたいと思います。続きの内容は、手術についての詳細をもう一つと、術後成績についての話をいずれアップさせていただきます。

 

 

おすすめ記事

モバイルバージョンを終了