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■院長の同級生からの便り Vol.6

「スペインで胸部外科医として活躍していた山本先生からの投稿です。「していた」というのは、彼は日本に帰国しこの4月から国内の病院で勤務予定であるとのことです。以下のことは実話で、初めて彼から話を聞いたときは笑い転げたものですが、国によって物事の感じ方がこれほどに違うものかと、改めて気づかされました。もちろん、日本の常識が海外では非常識にあたることは、往々にしてあるのですが・・・。」

 
■スペイン便り■
山本医師

皆様、こんにちは。

昨年スペイン留学記を投稿させていただいた山本一道と申します。早いもので三年に及んだスペインでの生活もまもなく終了しようとしております。この間、外国人、特に黄色人種としてヨーロッパで生活することの苦労を通して医療以外にもさまざまなことを考えることができました。また、私自身体調を崩した時期もあり、加えて家族がこちらで入院するということも体験することになりました。医者になって 10 年、患者、患者の家族としての立場から日本とスペインの医療の差も知ることができ、今後医者として働いていくうえで非常に得るものが多かった留学生活であったと振り返っております。

どちらの医療が正しいかはわかりません。ただ、言葉の問題を差し引いても日本人としてはやはり日本の医療が合っているということを痛感することになりました。もともと、日本で勤務していた際、内部から感じる矛盾とマスコミなどを通じて伝え聞く海外の医療を比べるに、是非海外で臨床に従事したい、と思い留学を決意したわけですが、やはり外から見るのと実際に現場にいるのとでは大きく違うもので、やはりどの国も大きな矛盾を抱えながら医療政策というものを試行錯誤している、ということには間違いないようです。

具体的に日本人としてこちらに来て感じた違いは、医療従事者の労働者の権利が非常に確立しているため、それが患者の利益と相反する場合、医療従事者の権利が優先される、ということです。日本の場合、慢性的なサービス残業や休日返上、有給休暇をとることができない、などは職種を問わず、一般的なことですが、このようなことはこちらでは考えられず、したがって手術の延期、手術の待機リストが一年を超える、など当たり前の状態で、医療従事者のストも日常茶飯事です。また、主治医制ではなく、交代制のチーム医療のため、責任の所在がはっきりせず、いい加減な術後管理で、日本では考えられないような合併症が頻発します。その代わり、すべての公的病院では医療は無料で、仮に違法移民であっても無料の医療が受けられるという利点もありますが、より一層の便宜を図りたい場合は、自費で私立病院を受診せよ、という体制が徹底しており(混合診療はありません)、お金を払うほどクオリティに高い医療が受けられるという構造になっています。
この点で、実質私的保険が存在せず、すべての患者が貧富の差に関係なくハイレベルな医療を受ける権利を有する従来の日本の保険制度の利点を大いに痛感することになりました。もちろん、多くの矛盾はあると思いますが、西洋人のように、「金がないから死なざるを得ない」という発想は日本人には理解不可能である、と強く考える次第です。

本来、最低限の国民の健康は国が守るものであるとかんがえますが、現在のマスコミの風潮は、医師と患者間の闘争として描くことにより、その本来の原因を敢えてぼかしているように感じます。この点をはっきりせず、見せ掛けの改革を繰り返してもその場しのぎでむしろ状況は悪化するだけであると考えます。
不勉強でえらそうなことを書きましたが、少し話題を変えてみます。
こちらに来て、実際に医療するようになって感じた日本人との「患者として」の差に、痛みに対する強さがあります。胸の中にたまった空気や水を抜くために管を入れたりする際、局所麻酔の注射をしてから挿入するのですが、日本人の場合、やはり麻酔後でもある程度痛がることが多々あります。しかし、こちらの患者の場合、少量の麻酔でも全く痛みを感じなくなる場合があり、日本人と同じ感覚でやっていると、完全に痛みがなくなるようで、「あの東洋人の医者にやってもらうと痛くない」と患者さんたちのありがたい評判を頂くこともあります。しかし、単に中国伝来の不思議な効果、という発想で言ってるだけかもしれません。
これと同じような話で、気管支鏡という医療の中で最も苦しいといわれる検査があります。これは文字どうり胃カメラの小さくなったようなカメラを胃ではなく、気管から肺のほうに入れるわけですが、気管と言うのは水が一滴入っても咳き込むとおり、大変苦しい検査です。日本の場合、入念に麻酔をしても患者さんたちからは「地獄のようだった」といわれることもあります。ところが,こちらの場合、麻酔もスプレーを一、二回噴射するだけで検査を開始します。当然のごとながら恐ろしいほど咳き込むのですが、これをどう解決するのかと思ってみていると、単に「アグワンターアグワンター(我慢しろ我慢しろ)」といってひたすら検査を続けます。患者さんは咳と涙と鼻水にまみれて、それは気の毒で、見ているこっちも泣きそうになりますが、スペイン人たちはなれたもので何事もないように検査が過ぎていきます。その光景は悪夢というよりは、冗談というか「わざとやってるの?」と思うぐらい、日本ではありえないものです。こちらの場合はスペイン人が特に気管の反射が少ないのではなく、要は単に我慢させているだけだと気がつきました。昔、虫歯を抜くのに糸を扉に結び付けて、無理やり抜いていた、というのと大差ないような気がしなくもありません。
■左:将来ハムになる豚たちと ■右:魚のひれを使った変り種パエリア


ヨーロッパに来る前に疑問だったことに「なぜヨーロッパ人は一ヶ月も夏休みが取れるのか」ということです。実際にこちらで夏を何回もすごすにつれ、その構造を理解することができました。「誰も働いてない」のです。スペインの場合、八月一杯は公的機関もほぼ休業状態になり、一般の店もほとんどが夏休みとして閉まってしまいます。八月一杯は乗り物も毎日休日ダイヤ。それは病院も例外でなく、病棟を一部完全に閉鎖してしまうこともあり、この間に入院が必要となれば、当番となっている病院に行く以外にありません。病気の数が夏に合わせて減ってくれるわけでもないですから、事故などの緊急以外は、癌などの悪性疾患でも夏明けまで順番待ちになります。町で買い物しようにも店も開いていないし、家で何かが故障しても夏明けまで部品が届かないので修理不可能、何をするにも何もできない状態になります。八月はほとんどの人が郊外のリゾート地に出て行き、町も一ヶ月間閑散としてしまいます。つまり、一ヶ月間各自が休みを取るために、その間の不便は我慢する、という発想であるということです。日本でこれができるか?ということを考えて、日本で一ヶ月休むというのは無理である、とあきらめた次第です。
こちらにいる間はつらいことばかりで気も滅入っていましたが、いろんな意味でいい経験になるだろう、と総括に入っている今日この頃です。

2005 年 1 月 1 日バレンシアにて、
 
■院長の同級生からの便りNo.1〜No.5は→コチラ
 

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